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甲府地方裁判所 昭和25年(行)33号 判決

原告 井出与五右衛門 外一五名

被告 山梨県知事

一、主  文

原告等の本件訴はいずれもこれを却下する。

訴訟費用は原告等の負担とする。

二、事  実

原告訴訟代理人は、「被告山梨縣知事が昭和二十五年八月十一日なした別紙目録記載の各土地の買收計画に同じ原告等がした訴願を棄却する旨の裁決を取り消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求め、その請求の原因として陳述した事実の要旨は次のとおりである。

「一、別紙目録記載の各土地はそれぞれ同記載のとおり原告等の所有に属するものであるが、山梨縣農地委員会は、右各土地につき買收計画を樹立し、昭和二十四年十一月二十二日より同年十二月十二日まで公告縱覧に供したので、原告等は同年十二月六日異議の申立をしたが、昭和二十五年三月三十一日棄却の決定がなされ、五月十五日右決定書の送達をうけたので、同月二十六日被告山梨縣知事に訴願をしたところ、同年八月十一日右訴願を棄却する旨の裁決がなされ、同月十七日原告等は同裁決書の送達を受けた。

二、しかしながら本件買収計画には次のような違法がある。すなわち、

1.昭和十六年以來右各土地の所在する山梨縣南都留郡船津村では開墾のための山林伐採が過度に行われ、村内畑面積三百二十町に対し山林は百九十町歩に過ぎず、これは山村における農業経営において耕地面積一に対して山林二乃至三を必要とする原則に背馳し、既に燃料緑肥の村内自給を不可能としている現況において、これ以上山林を開墾することは相当でない。

2.右船津村は從前、富士山の雪代による被害は想像に絶するものがあり、明治以來村民共同の植林によつて漸くこれを防止して來たのであるが、近時開墾の追捗により再び雪代による被害の危險が現われているので、本件山林の開墾は相当でない。

3.更に右船津村においては例年颱風の被害、冬期の富士裾野による冷害を防止するため、防風林の育成が必要であるのに、本件山林の開墾は全く逆の効果を及ぼすものであるから、その開墾は相当でない。

4.なお同村では薪炭林が皆無であるところ、本件山林は用材林としてその間伐により薪炭材をも採取し得るものであり、この育成には三十年乃至五十年以上を必要とするものである。これに反し食糧は今や世界的過剩生産の時体に入り、世界経済の一環に加わることになつた林が国において、今本件山林を開墾することは国家経済上も相当でない。

5.本件山林は富士山寄りに所在し、住宅地域より三粁半乃至八粁の遠距離にあり、然るに開拓計画によればこれを数十人に配分するということであるから一人あたり取得範囲は僅に三、四反に過ぎず、かかる遠距離に僅少の耕地を所有しても到底適正な耕作は行われないので、これを開墾適地ということはできない。

以上の各点を考え、船津村議会では昭和二十四年九月十二日本件山林買收に反対決議をしたものであつて、要するに本件買収計画は開墾に適しない本件山林を買收対象とするものであつて、而もこれを定めるにつき自作農創設特別措置法施行規則第十四條に基く手続で履行せず、開拓案の議会に諮問していない違法があり、これを認容して原告の訴願を棄却した本件裁決も亦違法であつてその取消を免れないものである。

三、なお、被告は本訴が出訴期間を経過しているというが、前記のように原告等が本件裁決書の送達をうけたのは昭和二十五年八月十七日であつて、当時船津村では一月遅れの盆に当り、引き続き同月二十四日から二十七日にかけて富士山電鉄の河口湖線開通の祝賀会があり、この事業に関與した地元民として右祝賀準備に忙殺され、本件におけるような多数の原告等は出訴につき準備協議する暇なく、且つ原告井出與五右衞門は同月二十九日頃、山梨縣開拓課に赴き、出訴手続を問い合せたところ、同課小林首席主事より出訴期間は法律上は一ケ月であるが、この事件は二ケ月位猶予する旨を告げられ、又上京して農林省に赴き、山中、林両事務官よりも出訴期間は二ケ月ないし三ケ月と教示されたので、十分出訴の余裕があるものと考えていたものであり、本件訴訟代理人坂本弁護士が原告等より本件訴訟を委任されたのも、同年九月十八日であつたという事情であるから本件目的土地が廣範囲に亘つており、多数の原告が愼重協議して同一歩調を取ることの必要なことを考え合せれば本件出訴が裁決書の送達より一ケ月以上を経過したのは正当の事由があるものである。」と述べた。(立証省略)

被告指定代理人は、まず主文第一項同旨の判決を求め、本案前の抗弁として、

「本件裁決書が原告等に送達されたのは、原告等の主張するように、昭和二十五年八月十七日であるのに、右裁決の取消を求める本訴は同年十月七日に提起されており、自作農創設特別措置法第四十七條の二所定の出訴期間を徒過した不適法のものであるから、却下さるべきである。」と述べ、

本案につき「原告等の請求を棄却する。」との判決を求め、答弁として、

「原告等の主張する事実中、山梨縣農地委員会が原告等所有の別紙目録記載の各土地につき買收計画を樹立し昭和二十四年十一月二十二日より同年十二月十二日まで公告縱覧に供したこと及びこれに対し原告等よりその主張するような経過で異議訴願の手続がとられたが、いずれも排斥され、訴願棄却の裁決書が原告等主張の日に原告等に送達になつたことは認めるが、その他の事実は爭う。殊に本件土地は、昭和二十四年一月十八日附農林次官通牒「開拓適地選定の基準」に準拠して構成された山梨縣開拓審議会で開発適地と判定されたもので、少くとも自然條件において開墾不適地とする理由を見出すことができない。且つ耕地狹小で人口過剩、且つ零細農家が多い我が国の現状に即して考えれば、本件土地買收のごときは、必要欠くべからざる施策と云わなくてはならないのである。なお原告が本件出訴期間徒過につき正当の事由として主張するところは知らない。」と述べた。

三、理  由

山梨縣農地委員会が原告等所有の別紙目録記載の各土地につき買收計画を樹立し、昭和二十四年十一月二十二日より同年十二月十二日までこれを公告縱覧に供したもので、原告等よりそれぞれ同年十二月六日異議の申立をしたが棄却され、更に昭和二十五年五月二十六日被告山梨縣知事に訴願したところ、同年八月十一日右訴願が棄却となり、その旨の裁決書が同月十七日原告等に送達されたことは当事者間に爭がない。

よつて本訴の適否について審究するに、昭和二十二年法律第二百四十一号により改正された自作農創設特別措置法第四十七條の二によれば同法による行政廳の違法なものの取消変更を求める訴は当事者がその処分のあつたことを知つた日から一ケ月以内にこれを提起しなければならないことになつている。而して前記のように原告等は昭和二十五年八月十七日本件訴願棄却の裁決書の送達を受けたのであるから、特段の事情なき事件において原告等は同日右処分のあつたことを知つたものと解すべく、本訴提起の日が法定の一箇月を経過した同年十月七日(但し原告渡辺與利太郎、渡辺高能については同月十一日)であることは記録上明白である。

原告は、正当な事由によつてこの期間内に訴を提起することができなかつたものであるから本訴は適法であると主張するが行政事件訴訟特例法第五條第五項で同各第一項、第三項の規定は他の法律で特別の定のある場合には適用のないことを定め、前記措置法第四十七條の二の規定は右の特別の定に当るのであるから、本件においては右特例法第五條第一項、第三項の適用は除外されるわけであるが、同特例法第五條第二項の適用は除外されていないので右措置法第四十七條の二第一項本文に定める処分のあつたことを知つた日から一箇月という期間は不変期間と解すべく、右出訴期間の経過については民事訴訟法第百五十九條の適用があるのであつて右特例法第五條第三項但書によることはできないのである。

ところで原告が本件出訴期間を経過した正当の事由として主張するところのものは、民事訴訟法第百五十九條にいう当事者の責に帰すべからざる事由に該当するものと認められないので、原告等の期間の懈怠はこれを救済するによしなく、原告等の本訴は不適法として却下を免れない。

よつて訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九十五條、第八十九條を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 入山実 石田実 宮沢邦夫)

(目録省略)

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